とりあえず、長居は無用。
さっさと次の町に行こう。
倒れていたのかは知らないが、運ばれたらしい。
めだっていただろう。
僕は鞄を持ち、肩にかけると部屋を出た。
「あんた、起きたのかい!」
無視できないような明るさ。
嫌だなぁ。あまり、関わりたくはないのだけれど。
大柄な男は陽気に話し掛けてくる。
「オレがあんたを運んだんだよ。山道であんたが倒れてたからなぁ……」
「寝てたんですよ。それ」
男はむっと、顔をしかめる。
「道で寝るやつがいるか? いないだろ?」
「あそこ、道っていうほど整備されてませんでしたけど」
「あー、成る程な」
思い当たるふしがあるのか、男は頷いた。
「この町、奇妙だと思わねぇか?」
「……ええ。全部、白。何故ですか?」
男は間をおいて言った。
「十二年前、前の町長から今まで引き継がれて来たことなんだ」
「何を?」
「前の町長の娘が子供を産むことになった」
「それからだ、それから町長は町を白くし始めた」
「何故」
「噂によると、町長の娘は“狐”だっつー噂だ」
狐? 狐は尾がある。だから、誰でも見分けがつく。
それに、狐だとしても全て白にする必要はない。
それに、こんな町にあの狐がいるわけがない。
「オレの名前はイズだ。見かけたら声かけてくれや」
もう出て行くからいいよ。とこころの中で呟いてみる。
「旅人さん、出て行かれるのですか?」
ミール、ちゃんが話しかけてきた。
とてもじゃないが、狐の娘には見えない。
「旅人じゃなくて、“ルジ・ヘレメント”」
まぁ、この子なら大丈夫だろう。
あのことを知っているはずがない。
「さっき、イズさんと話してましたよね……?」
ミールちゃんの声が暗くなる。
「うん。どうかしたの?」
「私、がその娘の子供なんです」
「うん。なんとなく分かったよ」
「え?」
「お母さん、空孤でしょ?」