地響きがする。何か、大きなものが現れる。
王、というものが、か? 先ほどの歌を聞くかぎり、現れるのは海の王か?

「勘がいいわネ。ボーヤ。その通り、サティ王は海を総べる王ヨ」

ってまて。僕、こんな余裕かましてる場合じゃない。
時計も奪われ、僕は歌は歌えないのだから。王って言う程だから、チカラは強いに決まっている。
ころされる……?

『ヴィーラ・アンセンナの命により、参った。サティ・オーシャン』

触手と同じ色。だけど、触手よりも透き通っていて、向こう側が見える。
水でできているのか? 光を受け、キラキラと輝いて見える。
流石、王──神々しい。

「よろしく。サティ」
『貴様は、面白いからな、何処までも付き合ってやるぞ』

でかいな。頭が天井につきそうだ。
サティは、水のような手を僕に向かって振り下ろした。

水の、感触。息ができない。
僕を掴む触手の力が強くなった。

終わり、か……?


『ひとつ 双つ どちらもひとつ
 だけど、貴方は違うから、私は憑かない
ばいばい』

え? 僕、じゃない……? どういうことだ。

「カナリアは僕のものだ」

脳裏に声が聞こえた。僕と似た声色だったが、何処か違う。殺気の篭ったような声。
どういうことだ……?!

「サティ、今日は有り難う」
『もういいのか。まぁ、いい。じゃあな』

パシャン、と水がはじけるような音がした。
浮遊感が消え、触手もサティも消えた。

「ボーヤの負けネ。だ、か、ら。アタシがボーヤを鍛えてアゲル」